- 店の扉を開ける何時間も前に、台所で何が終わっているのか
- 昼と夜のあいだにできる空いた時間が、休みにならない理由
- 一日じゅう立っている時間が、体のどこに先に出てくるか
- 閉めたあとに残る仕事と、次の日の仕込みが始まる場所
「料理を作るのは好きだけれど、自分の店を持ったとして、朝から夜まで何をしているのかが浮かんでこない」
自分の店を持ちたいと考えている人が、いちばん想像しづらいのは営業時間の外側です。
客が座っている時間のことなら、働いた経験がなくても思い浮かびます。見えないのは、扉が開く前と、閉めたあとに残っている時間のほうです。
何時から台所に立つのか。昼と夜のあいだは腰を下ろせるのか。閉めてから家に帰るまでに、まだ何が残っているのか。
ここでは、一人か家族だけで回している店の一日を、火を入れるところから火を落としたあとまでたどります。
自分ならどの時間帯で息が上がりそうか。そこまで掴めたら、この記事の役目は終わりです。

客が一人もいない朝の台所が、一日でいちばん火を使います
店の中がまだ暗いうちから、五徳の上では鍋が三つ同時に動いています。誰も座っていない時間に、その日の中身がほとんど作られます。
出汁を引き、肉を漬け、野菜を洗って切り、粗熱を取ってから冷蔵庫に入れます。昼に出す分と夜に回す分は、最初から分けておきます。
仕込みとは、注文が入ってから作り始めたのでは間に合わない工程を、先に済ませておくことです。煮る、漬ける、切るまでを開ける前に終わらせます。
作る量は、その日に何人来るかの見当だけで決まります。多く作れば残り、少なく作れば昼の途中で切らします。
見当を外した日は、どちらに転んでも手が増えます。残せば夜に回す算段をし、切らせば昼の合間に台所へ戻って足します。
届いた箱を開けて冷蔵庫に移すところまでが、開ける前の仕事です。床に置いた箱を胸の高さまで持ち上げる動きが、何度も入ります。
米を研ぎ、氷を作り、おしぼりを巻き、器を出しておきます。料理そのものではない支度が、朝の半分ほどを占めます。
そのあいだに扉の外を掃き、看板を出し、灰皿や傘立ての位置を直します。手を洗って白衣を替えたところで、ようやく客を入れられます。

火を入れてから、火を落とすまでをたどります
昼と夜の両方を開ける店では、一日の中に山が二つあります。山と山のあいだが空くので、家に帰るのは夜がすっかり更けてからです。
鍋を火にかけ、届いた材料を切って冷やします。店の中は静かですが、手はこの時間がいちばん速く動いています。
ここで終わらなかった分は、そのまま昼の待ち時間の長さに変わります。
扉を開けてから、客足はだんだんには来ません。ある時刻から一気に重なり、席が埋まり、注文が三つ四つ並びます。
焼きながら次の注文を聞き、水を足し、会計をして、下げた皿を流しに運びます。動く範囲は数歩ぶんです。
最後の客を送り出したら、看板を裏返して中に入ります。ここで座れるかというと、たいていは座れません。
夜の分を仕上げ直し、席を拭いて、油の温度を上げます。昼に切らした材料があれば、この時間に買い足しに出ます。
夜は、来る時刻がばらけます。早い人が帰ったあとに遅い人が入ってくるので、終わりの時間は自分では決められません。
先に片づけを始めたいのに、まだ食べている人がいる。この待つ時間が、体にはこたえます。
火を落とし、鍋と皿を洗い、床を流します。そのあとで、次の日に使う出汁を仕掛けてから鍵を閉めます。
昼の山の最中に、切らした材料を取りに行くことはできません。店に立っている人が抜けた瞬間、扉の内側が止まります。
動いている範囲は、台所と客席のあいだの数歩だけです。そのかわり、その数歩を一日に何百回も往復します。
席が埋まっている時間そのものは、思ったより短く終わります。長いのは、その前に作っている時間と、後ろで洗っている時間です。

昼と夜のあいだの数時間は、腰を下ろす時間ではありません
外から見れば、その時間の店は閉まっています。中では、昼に減った分を作り直し、夜の下ごしらえを進めています。
足りない物を買い足しに出るのも、業者に電話をするのも、床を洗うのもこの時間です。やることが多い日は、椅子に座らないまま夕方になります。
このあいだに三十分だけ賄いを食べて、そのまま夜の準備に戻ります。食べる場所は、客席の隅か台所の立ったままです。
手が空く日もあります。ただし空いた分は休みにはならず、掃除や書き物など、後回しにしていたものが入ってきます。
換気扇の油を落とす、冷蔵庫の中を並べ直す、届いた請求の紙をまとめる。どれも夜には手が回らない仕事です。
電話が鳴るのもこの時間です。夜の席を取りたい人、材料の値を伝えてくる相手、明日の配達の確認。手を拭いてから受話器を取ります。
店を昼だけ、あるいは夜だけにしている人もいます。開ける時間を減らせば体は軽くなりますが、そのぶん店の中の椅子が使われない時間が増えます。

閉めたあとに、もういちど同じ台所へ戻ります
最後の客が出ていくと、店の中が急に静かになります。そこからが、誰にも見られていない時間です。
皿を洗い、鍋をこすり、油を漉して、床にたまった水を流します。ゴミをまとめ、明日の材料を書き出してから電気を消します。
夜の営業の後半、洗い場に立って腰をひねりながら鍋を流しに置く動きを繰り返していると、足の裏の同じところが熱を持ってきます。
座る場所がないので、片方の足に体重を移して立ち続けます。閉めるまでそのままで、家に着いて靴下を脱ぐころには、土踏まずが張ったままになっています。
この張りが抜けきらないうちに、次の日の朝がまた来ます。体の使い方を変えないと、同じ場所に同じ疲れがたまり続けます。
洗い物を流しに残したまま帰ると、朝いちばんの手が洗い物から始まります。仕込みの時間がそのぶん削られ、開ける時刻に間に合わなくなります。
帰り道で買い物を済ませる人もいます。店の材料ではなく、自分の家の分です。店を出た時刻によっては、開いている店がもうありません。
まとめ
個人経営の飲食店の一日は、客が座っている時間より、その前後のほうが長くなります。火を入れるのは扉を開ける何時間も前で、火を落としたあとにも洗い場が残ります。
昼と夜のあいだにできる時間は、休みではなく作り直しの時間です。座らないまま夕方になる日のほうが、座れた日より多くなります。
体に出るのは腕より足です。立ち続けた時間の分だけ、足の裏と腰にたまっていきます。
ここまで見てきたのは、店を開けている日の話です。開けていない日にも、掃除や買い出しや帳面付けが残っていて、丸一日を空けられる人は多くありません。
自分の店を持つかどうかを考えるなら、営業日の一日だけでなく、休みにした日に何が残るかまで一度想像してみてください。
- 一人で回す店でも、途中で休憩は取れますか
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昼と夜のあいだに時間を作ることはできます。ただし、その時間に仕込み直しと買い足しが入るので、腰を下ろせるのは食事の数十分だけという日が続きます。
休みを取りたいなら、開ける時間そのものを短くするほうが確実です。
- 家族と二人で回すと、一日はどう変わりますか
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台所と客席を分けられるので、昼の山のときに動きが止まりにくくなります。片方が買い足しに出ても、店の扉を閉めずに済みます。
そのかわり、二人とも同じ時間に拘束されます。家の予定を別々に入れることは難しくなります。
- 昼だけ、夜だけの営業でもやっていけますか
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そういう形で開けている店はあります。仕込みが一回で済み、中休みの行き来もなくなるので、一日の長さはかなり変わります。
どちらを選ぶかは、店の前を人が通る時間帯と、自分がどの時間帯に作りたいかで決まります。
昼だけにすると夕方以降が空きますが、店の中で過ごす時間が短くなるぶん、扉を開けている一時間あたりの重みは増します。
写真から読む:提供写真で見る、食材と弁当の手元
