- 相手が言わないことを、手のほうから探しにいけるかどうか
- 効いたかどうかが、その場では返ってこない仕事だということ
- 自分の体を、毎日使う道具として扱えるかどうか
「人に触るのは好きなんですが、それだけで向いていると言っていいのかが分かりません」
一時間ずっと、返事のほとんど返ってこない背中に向かって、手を動かし続けられますか。
向いているかどうかを考えるとき、多くの人は性格のほうから入ります。話すのが好きか、細かいことに気づけるか。
ただ、施術の一時間の中で本当に問われるのは、もう少し手前にあることです。
ここでは、その場で繰り返し起きる場面を並べます。読みながら、自分ならどうするかを置いてみてください。
答えは書きません。分かれ目になる場所だけを、はっきりさせておきます。

相手が言わないことを、手のほうから探しにいけるか
横になった人が、自分の体のことを正確に説明できることはほとんどありません。
肩が痛いと言われても、触ってみると固いのは背中の下のほうだった、ということが起こります。
言われた場所だけを押していれば、その時間は静かに過ぎます。相手も、そういうものだと思って帰ります。
探しにいく人は、言われた場所の周りを先に触ります。左右を比べ、押したときに息が止まる場所を覚えます。
この違いは、その日には表に出ません。次に来てもらったときに、少しずつ差が開いていきます。
探すのは、好奇心に近い部分です。なぜここが固いのかを、毎回考えられるかどうか。
考えるのが面倒に感じる人は、決まった順番を毎回なぞる形になります。そこで止まる人は少なくありません。
相手はうつ伏せで顔が見えません。表情で確かめられないぶん、探す材料は手と、返ってくる短い返事だけになります。
左右で違いが出るのは、その人の生活の癖が体に残っているからです。荷物をどちら側で持つか、どちらの足に体重を乗せて立っているか。
そこまで見に行くと、押す場所が毎回変わります。前回と同じ手順をなぞるだけでは終わらなくなります。

強く押してほしいと言われた日に、手を緩められるか
もっと強くしてください、と言われる場面が必ず来ます。
言われたとおりに体重を乗せると、その場では喜ばれます。強いほうが効いた気がする人は多くいます。
ただ、その日の体が強い力に耐えられる状態かどうかは、押している側にしか分かりません。
ここで力加減を変えないでいられるかが、毎回問われます。喜ばれる方へ流れるのは、思っているより簡単です。
強さで満足してもらう形を続けないでください。次に来たときは、前より強くしないと同じように感じてもらえなくなります。
そして強くし続けた分は、こちらの手首と親指に返ってきます。自分の体のほうが先に止まります。
緩めるなら、理由を言葉にします。黙って弱くすると、手を抜かれたように受け取られます。
説明して、それでも強くしてほしいと言われたとき、どうするか。ここは人によってはっきり分かれます。
押す深さは、相手の筋肉が緩んでくる速さに合わせて変えます。同じ人でも、季節や寝不足で入り方が違います。
強さを一定にしてほしいと言われることもあります。そのときに、なぜ今日は浅くしているのかを説明できるか。
説明せずに押し切ると、その場は収まります。収まったぶんは、こちらの親指がまとめて引き受けます。

自分では扱えないと思ったときに、口に出せるか
触っていて、これは自分の手の範囲を越えている、と感じる相手が来ます。
そのとき、そのまま施術を続けるか、いったん止めて別のところを勧めるかを、その場で決めます。
止めると、その一回の代金は入りません。予約表が空いている時期なら、なおさら言い出しにくくなります。
止めた経験のある人は、回す先を先に決めています。整形外科の名前を控えておいて、その場で渡します。
決めていないと、迷っている数分がそのまま沈黙になります。うつ伏せの相手には、その沈黙の理由が分かりません。
言えるかどうかは、性格というより、先に決めてあるかどうかで変わります。
止めると決めた日は、後味が悪く残ります。せっかく来てくれた人を、何もせずに帰すことになるからです。
それでも止めた人は、そのあと同じ場面で迷わなくなります。一度口に出せると、次からは言葉の形が決まります。

効いたかどうかが、その場では返ってこないこと
施術が終わった直後の感想は、あてになりません。施術直後の「軽い」という声だけでは、次の来店で何が変わるかまでは読めません。
本当のところが出るのは、二日後か三日後です。そのころには、相手はもう日常に戻っています。
つまり、自分の手が何をしたのかを知るには、次に来てもらうまで待つしかありません。
間隔が空く仕事なので、待つ時間は何週間にもなります。その間、答えは出ないままです。
この宙ぶらりんを、気にせず次の人を受けられる人がいます。逆に、ずっと考え続けてしまう人もいます。
考え続けるほうが丁寧に見えますが、一日に何人も受けていると、そのままでは持ちません。
書いて残して、いったん手を離す。この切り替えができるかどうかが、続く人と続かない人を分けています。
前回の記録を開いて、押した場所と相手の言葉を読み返してから、次の施術に入ります。ここが答え合わせの場です。
合っていた日もあれば、まったく見当違いだった日もあります。どちらも、次に来てもらえたから分かることです。

自分の体を、毎日使う道具として扱えるか
この仕事では、自分の体がそのまま道具です。管理の仕方も、道具と同じになります。
爪は短く保ちます。少し伸びているだけで、押したときに相手の肌に当たります。
手の乾き方も見ます。冬に手が荒れると、シーツに引っかかって滑りが変わります。
前の日に飲みすぎた翌朝は、体重の乗せ方が甘くなります。相手には分からなくても、自分では分かります。
自分が疲れている日に、いつもと同じ施術を渡せないことを受け入れられるか。ここも毎日問われます。
続けている人は、生活のほうを先に組んでいます。押す日の前の夜に、予定を入れない人もいます。
好きなことを仕事にすると、生活の側が自由になると思われがちです。実際は、逆向きに縛られます。
腰と手首は、いちど痛めると立ち方から作り直すことになります。作り直している間は、同じ深さまで届きません。
だから休みの日に何もしない、という過ごし方を選べるかどうかも、この仕事では判断のうちに入ります。
押す手を守るために、休みの日に重い物を持たない人もいます。仕事の外まで、道具の都合で決まります。
まとめ
問われるのは性格よりも、言われた場所の周りを自分から触りにいけるかどうかです。ここで毎回、渡せるものが変わります。
強くしてほしいと言われた日に手を緩められるか。喜ばれる方へ流れると、次はもっと強くしないと届かなくなります。
扱えないと感じたときに止められるかどうかは、先に行き先を決めてあるかどうかで決まります。
効いたかどうかは、その場では返ってきません。書いて残して手を離せる人と、考え続けてしまう人に分かれます。
同じ場面に立っても、探すのが面白いと感じる人と、毎回考えることに削られる人がいます。分かれるのは腕前ではなく、答えの出ない時間をどう過ごせるかのほうです。そこは、何人か続けて受けてみるまで自分でも分かりません。
- 人見知りでも続けられますか
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施術中はうつ伏せなので、会話は多くありません。話し好きである必要はありません。
ただし触る前に体の様子を聞く時間と、終わってから次の間隔を伝える時間があります。ここだけは黙っていられません。
- 体力に自信がないと向いていませんか
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深さを出しているのは重心の移し方なので、体格そのものは大きな差になりません。台の高さが合っていれば、力はそれほど要りません。
差が出るのは、一日に何人受けても押し方が崩れないかどうかです。ここは体格より、立ち方の癖のほうが大きく出ます。
- 手先が器用でないと難しいですか
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細かい動きよりも、手のひら全体で違いを感じ取れるかのほうが使われます。ここは回数で変わっていく部分です。
早い時期に差が出るのは器用さではなく、同じ人の体を何度も触って、前との違いを覚えていられるかどうかです。
