- 施術の中身が、腕の力ではなく自分の体重を預ける仕事だという話
- 相手がうつ伏せのあいだ、こちらの手つきも表情も届いていないこと
- 一人でやるときに自分の手元へ来るものと、代わりに増える判断
「店で施術を続けてきましたが、一人でやるとなると何がどう変わるのかが、いまひとつ見えません」
一日の終わりに手を洗いながら、今日はこの手で何人分の背中を押したのか、数えたことがあると思います。
雇われて押すのと、自分の名前で押すのとで、どこが入れ替わるのか。外からだと、その線が見えにくいところです。
入れ替わるのは押し方ではありません。押している一時間の前と後ろに、何がくっついてくるかのほうです。
ここでは施術そのものの中身を先に置いて、そのうえで一人になったときに自分の手へ来るものを並べます。

仕事の中身は、自分の体重を相手の体へ預けることです
施術は腕の力で押すものだと思われがちですが、長く続けている人ほど腕を使いません。自分の体を相手の上へ運んで、その重さを指や肘の一点に落とします。
ですから強さを作っているのは握力ではなく、足をどこに置くかと、腰をどの高さに保つかです。
ベッドの高さが自分の身長に合っていないと、この置き方が崩れます。崩れた分は、その日のうちに腰へ出ます。
固まっている筋肉を探すのは指の腹です。押しながら探して、探しながら深さを変えます。この二つは分かれていません。
骨盤の傾きや肩の高さを先に見て、どこから触るかを決めます。見る時間は、横になってもらう前に済ませます。
一日の終わりに残るのは、足の裏と腰のだるさです。腕はむしろ、思っていたほど疲れていません。
押す深さを変えるときも、指の力ではなく、自分の重心をほんの少し前へ送るだけです。肘の角度は変えません。
この動きが体に入るまでは、腕で押してしまいます。腕で押した日は、翌週に肩のほうが先に張ります。

うつ伏せの相手からは、こちらが見えていません
施術の大半は、相手がうつ伏せのまま進みます。顔はベッドの穴に入っていて、こちらの手つきも表情も届きません。
だから、次にどこへ触るかを声で先に渡します。肩を触りますと言ってから触る。これを一回ごとに繰り返します。
黙ったまま手を止めないでください。相手には、こちらが考えて止まったのか、何かあって止まったのかが分かりません。
痛みの手前かどうかも、顔色では確かめられません。力加減は、返事と、体のこわばり方から測ることになります。
息の詰まり方でも分かります。強く入りすぎた場所では、相手の呼吸が浅いところで止まります。
タオルの掛け方も仕事のうちです。出ている肌の面積が変わると、相手の力の抜け方がはっきり変わります。
見えていないのはお互いさまです。こちらからも、相手が今どんな顔をしているかは最後まで分かりません。
声のかけ方も、途中で変わります。最初は長く説明しますが、何回か来てもらううちに短くなります。
眠ってしまう人もいます。寝息が聞こえ始めたら、そこから先は声を落として、触る順番だけを守ります。

力加減を決める人が、自分ひとりになります
店にいたころは、迷ったときに奥へ声をかければ済みました。強すぎないか、この人にこの姿勢を取ってもらってよいか。
一人になると、その確認先が同じ部屋からいなくなります。ベッドの横で、その場で決めることになります。
決めたことが合っていたかどうかは、たいてい次に来てもらった日に分かります。
通う間隔が空く仕事なので、答え合わせまでの距離が長くなります。忘れたころに返ってきます。
自分の手には合わないと判断して、受けないと決めるのも同じ側の仕事です。
扱える範囲を曖昧にしたまま相手を台へ案内すると、横になってから施術を止める場面が生まれます。
同じ強さでも、その日の相手の体調で入り方が変わります。前の週に効いた押し方が、今週は強すぎることがあります。
だから毎回、最初の数分は探る時間に使います。ここを飛ばすと、先週の記憶のまま押してしまいます。
迷ったまま押した回は、自分でも分かります。手が浅いところで止まって、そのまま時間だけが過ぎていきます。

押している時間の外側に、仕事のほうが広がります
一人でやると、予約の返事も、部屋の掃除も、タオルの洗濯も、全部が自分の手に来ます。
施術そのものが一時間でも、その前後に三十分ほどが付いてきます。着替えを待ち、体の様子を聞き、終わってから水を出します。
この前後の時間は、料金表のどこにも出てきません。それでも毎回、同じだけかかります。
予約が一件も入らない日にも、洗う物は出ます。前日の分を残すと、翌朝そのまま足りません。
シーツを替え、ベッドの位置を戻し、オイルの減りを見る。ここまでで一人分が終わります。
会社員だったころとの違いがいちばん出るのは、この外側です。押していない時間が、そのまま自分の時間から引かれます。
店にいたときは、この部分を誰かが先に片付けてくれていました。気づくのは、一人になってからです。
洗濯機を回すのは、たいてい最後の人を見送ったあとです。回している間に、翌日の予約の返事を書きます。
部屋の換気も欠かせません。オイルのにおいは、思っているより長く残ります。次の人が入ってきたときに気づきます。

手元に来るのは、部屋と、予約表と、受けない判断です
一人でやると決めたときに自分のものになるのは、大きく三つです。
一つ目は場所です。ベッドの向き、部屋の明るさ、置く音の大きさまで自分で決められます。
冬に部屋を先に温めておくか、夏に風を直接当てないか。こうした細かいところが、そのまま施術の質になります。
二つ目は予約表です。何時から受けるか、一人と一人の間を何分空けるかを、自分の体に合わせて組めます。
三つ目は、受けないと決める側の判断です。合わないと感じた相手を、無理に引き受けなくてよくなります。
そのかわり、埋まらない曜日も自分のものです。誰かが穴を埋めてくれることはありません。
店に立っていたころは、空いた枠に別の担当が入っていました。一人になると、空いた枠は空いたまま残ります。
部屋の温度も自分の判断になります。うつ伏せで動かない人は、想像よりずっと早く体が冷えます。
予約表の組み方も、そのまま自分の体に返ってきます。連続で入れた日は、三人目から押す深さが浅くなります。
休みを自分で決められるのも、この三つと同じ側にあります。決めた休みの分だけ、その月は誰も押しません。
まとめ
施術で使っているのは腕の力よりも、自分の体重と、足の置き方です。ベッドの高さが合わないと、そこから崩れます。
相手はうつ伏せで、こちらの手も顔も見えていません。次にどこへ触るかは、毎回声にして渡すことになります。
一人になると、力加減も、受けるかどうかも、ベッドの横で自分が決めます。確認できる相手は同じ部屋にいません。
働き方として大きく入れ替わるのは、押している一時間ではなく、その前後に付いてくる時間のほうです。
自分の体重を他人の背中へ預ける、と書くと単純に見えます。それを一日に何度も繰り返したあと、手のひらに何が残っているのかは、実際に押してみた人の中からしか出てきません。
- 施術台に立つ時間が長い日は、どう休みを取りますか
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強さを作っているのは腕ではなく、乗せる重さのほうです。ですから体格とは別のところで決まります。
ただし一日に何人受けられるかは、腰と手首の持ち方で変わります。人によってはっきり差が出る部分です。
- 施術中は、ずっと話していないといけませんか
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話し続ける必要はありません。ただ、次に触る場所だけは毎回声で伝えます。うつ伏せで顔が見えないので、黙っていると相手には何も届きません。
静かに受けたい人もいます。どちらがよいかは、横になってもらう前に聞いておくと、途中で迷いません。
- 店で働いてから一人になるのと、最初から一人でやるのとでは違いますか
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決まった順番はありません。ただ一人になると、力加減を確かめられる相手が同じ部屋からいなくなります。
その状態を先に経験しているかどうかで、最初の数か月の落ち着き方が変わってきます。
